人のやさしさに触れて

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ある夏の日のこと。
私はその日、母の誕生日祝いを買いに行くために3か月になる娘を抱え電車に乗り込んだ。
ショッピングモールまでは最寄りの駅からバスに乗り換えなければならず、電車を降りたら少々急ぐ必要があった。

--この暑さでこの子を抱っこして走るのはしんどかな。

そんな風に考えながら私は電車に揺られていた。
その日の電車はいつもより5分ほど遅れており、駅に到着した時にはバスの発車時刻までほとんど余裕がなかった。
駅のホームの階段を娘を抱えながら早歩きで登り、改札を抜けて速足でロータリーに出る下りの階段を下りて行った。

努力虚しくそのバスは私たちが階段を降り切った瞬間に発車してしまった。
「あーぁ、バスでちゃったね~」
そう娘に話しかけ、次のバスに乗ろうと思っていたその時。

私より少し前を歩いていた若い男性が突然振り返り、私たちの方を見てこう言った。
「バス乗りますか?」

--バスって今発車したバスのことなのだろうか?

私は何のことを言っているのかわからなかったが、咄嗟のことだったので
「はい」とだけ答えた。
するとその男性は突然走り出し、バスの運転手に向かって手を上げ、頭を下げバスを止めてくれたのだ。

何が起こっているのか頭の整理が追っつかない私に彼は言った。
「どうぞこちらです」
私はバスの入口へ案内されバスに乗ることができた。
娘を抱えていたのと、この暑さもあって本当に助かった。次のバスが来るのは1時間も後なのだ。

都会のバスだったら怒られてしまうことかもしれないが、私の住んでいる田舎では時間帯によってバスは1時間に0本~2本しか来ない。そのため、このバスを逃してしまうと本当に大変なのだ。
私一人ならば30分や1時間くらい待っていても苦ではないが、3か月の娘にとってこの暑さはなかなか大変なものだ。それゆえに感謝しかなかった。

彼はバスの運転手に向かって深く頭を下げ、バスを見送った。私は運転手さんに「すみません」とお礼を言いバスに乗ることができた。
彼は結局バスには乗らなかったため、私は彼にお礼を言うことができなかった。
もし今度どこかで会えたならお礼を言いたい。
「ありがとう」

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